幸福も不幸も、ひょっとしたらその人自身が作るものではないのか。
そして、その上に人の心に忽ち伝染するものではないのか。
とすると、自分にも他人にも、幸福だけを伝染させて、生きていこうと、私は思う。
那須の家の庭に苔が生えたのを見ても、幸福である。
いま、すれ違っていった人の笑顔を見たのも幸福である。
幸福はたちまち伝染して、次の幸福を生む。
人間同士のつき合いは、この心の伝染、心の反射が全部である。
何を好んで、不幸な気持ちの伝染、不幸な気持ちの反射を願うものがあるか。
幸福は幸福を呼ぶ。
幸福は自分の心にも反射するが、また、多くの人々の心にも反射する。
宇野千代