トラウマは存在しない
アドラー心理学では、トラウマを明確に否定します。
いかなる経験も、それ自体では成功の原因でも失敗の原因でもない。
われわれは自分の経験によるショック、いわゆるトラウマに苦しむのではなく、経験の中から目的にかなうものを見つけ出す。
自分の経験によって決定されるのではなく、経験に与える意味によって自らを決定するのである。
幼いころに虐待を受けたといった出来事が、人格形成に及ぼす影響がゼロだとはいいません。
影響は強くあります。
しかし大切なのは、それによってなにかが決定されるわけではない、ということです。
人生とは誰かに与えられるものではなく、自ら選択するものであり、自分がどう生きるかを選ぶのは自分なのです。
自分で「不幸であること」を選んだ
いまのあなたが不幸なのは自らの手で「不幸であること」を選んだからなのです。
不幸の星の下に生まれたからではありません。
あなたは人生のどこかの段階で、「不幸であること」を選んだ。
「不幸であること」がご自身にとっての「善」だと判断した、ということなのです。
ライフスタイル
アドラー心理学では、性格や気質のことを「ライフスタイル」という言葉で説明します。
人生における、思考や行動の傾向です。
その人が「世界」をどうみているか、また「自分」のことをどうみているか。
これらの「意味づけのあり方」を」集約させた概念が、ライフスタイルです。
アドラー心理学では、ライフスタイルは自ら選びとるものだと考えます。
もしもライフスタイルが先天的に与えられたものではなく、自分で選んだものであるのなら、再び自分で選びなおすことも可能なはずです。
これまでどおりのライフスタイルを選び続けることも、新しいライフスタイルを選びなおすことも、すべてはあなたの一存にかかっています。
あなたが変われないのは、自らに対して「変わらない」という決心を下しているからなのです。
ライフスタイルを変えようとするとき、われわれは大きな『勇気』を試されます。
アドラー心理学は、勇気の心理学です。
あなたが不幸なのは、過去や環境のせいではありません。
ただ、「幸せになる勇気」が足りていないのです。
競争からの解放
対人関係の軸に「競争」があると、人は人間関係の悩みから逃れられず、不幸から逃れることができません。
競争の先には、勝者と敗者がいるからです。
競争や勝ち負けを意識すると、必然的に生まれてくるのが劣等感です。
常に自分と他者とを引き比べ、あの人には勝った、この人には負けた、と考えているのですから。
ひとたび競争の図式から解放されれば、誰かに勝つ必要がなくなります。
「負けるかもしれない」という恐怖からも解放されます。
他者の幸せを心から祝福できるようになるし、他者の幸せのために積極的な貢献ができるようになるでしょう。
その人が困難に陥ったとき、いるでも援助しようと思える他者。
それはあなたにとって仲間と呼ぶべき存在です。
「人々はわたしの仲間なのだ」と実感できていれば、世界の見え方はまったく違ったものになります。
対人関係の悩みだって激減するでしょう。
承認欲求を否定する
アドラー心理学では、他者から承認を求めることを否定します。
他者から承認される必要などありません。
むしろ、承認を求めてはいけない。
われわれは「他者の期待を満たすために生きているのではない」のです。
他者からの承認を求め、他者からの評価ばかりを気にしていると、最終的には他者の人生を生きることになります。
ほんとうの自由とは
アドラー心理学では「すべての悩みは、対人関係の悩みである」と考えます。
つまりわれわれは、対人関係から解放されることを求め、対人関係からの自由を求めている。
しかし、宇宙にただひとりで生きることなど、絶対にできない。
すなわち、「自由とは、他者から嫌われることである」と。
あなたが誰かに嫌われているということ。
それはあなたが自由を行使し、自由に生きている証であり、自らの方針に従って生きていることのしるしなのです。
でも、すべての人から嫌われないように立ち回る生き方は、不自由きわまりない生き方であり、同時に不可能なことです。
他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを怖れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできない。
つまり、自由になれないのです。
嫌われる可能性を怖れることなく、前に進んでいく。
それが人間にとっての自由なのです。
幸せになる勇気には、「嫌われる勇気」も含まれます。
その勇気を持ちえたとき、あなたの対人関係は一気に軽いものへと変わるでしょう。
この瞬間から幸せになれる
人間にとって最大の不幸は、自分を好きになれないことです。
この現実に対して、アドラー心理学はきわめてシンプルな回答を用意しました。
すなわち、「わたしは共同体にとって有益である」「わたしは誰かの役に立っている」という思いだけが、自らに価値があることを実感させてくれるのだと。
すなわち「幸福とは、貢献感である」。 それが幸福の定義です。
「いま、ここ」にスポットライトを当てる
われわれはもっと「いま、ここ」だけを真剣に生きるべきなのです。
人生は連続する刹那であり、過去も未来も存在しません。
過去にどんなことがあったかなど、あなたの「いま、ここ」にはなんの関係もないし、未来がどうであるかなど「いま、ここ」で考える問題ではない。
「いま、ここ」を真剣に生きていたら、そんな言葉など出てこない。
過去も未来の存在しないのですから、いまの話をしましょう。
決めるのは、昨日でも明日でもありません。
「いま、ここ」です。
無意味な人生に「意味」を与える
そこでアドラーは「一般的な人生の意味はない」が、「人生の意味は、あなたが自分自身に与えるものだ」と語っています。
人生一般には意味などない。
しかし、あなたはその人生に意味を与えることができる。
あなたの人生に意味を与えられるのは、他ならぬあなただけなのだ、と。
あなたがどんな刹那を送っていようと、たとえあなたを嫌う人がいようと、「他者に貢献するのだ」ということを見失わなければ、迷うことはないし、なにをしてもいい。
嫌われる人には嫌われ、自由に生きてかまわない。
他者貢献を掲げていれば、つねに幸福とともにあり、仲間とともにある。
あなたにとっての人生の意味は、「いま、ここ」を真剣に踊りきったときにこそ、明らかになるでしょう。
「わたし」が変われば「世界」が変わってしまう。
世界とは、他の誰かが変えてくれるものではなく、ただ「わたし」によってしかかわりえない、ということです。
嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え | ||||
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岸見一郎
哲学者。1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の西洋古代哲学、特にプラトン哲学と並行して、アドラー心理学を研究。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。著書『アドラー心理学入門』など。 古賀史健 ライター/編集者。1973年福岡生まれ。1998年、 出版社勤務を経てフリーに。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。20代の終わりに 『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで本企画を実現。