晴れてよし 曇りてもよし 富士の山 もとの姿は 変わらざりけり
山岡鉄舟
ときには誤解を受けるかもしれない。
ときには言われなき批難を受けるかもしれない。
しかし、そんなことを気にする必要はない。
人のこころはいい加減なのものだ。
気分でころころ変わるものだ。
時が解決する。
富士山のように、悠然と構えていればいいのだ。
『山岡鉄舟』より転載
この当時、鉄舟に対して「あいつは徳川の直参だったのに、今は踝を返して宮中に仕えている。
かつては忠節の鉄舟と言われたはずだ。節操がない野郎だ」という陰口を叩く声があった。
人からの蔭口は無視しているものの、鉄舟も人の子、やはり心を曇らせていたが、富士のお山はどうなのか。
晴れた日も、曇った日も、変わることなく爽やかに気高く聳えている。
それに対して、人は自分の都合に合わせて、雨の富士はよくねぇ、霧の中では見えねぇ、なぞと勝手にぼやいている。
富士山はいつも変わらないのに、見る人の心のあり様でお山に対する評価を変えている。そう思った瞬間、悟りの境地に達したのであった。