「日本人の品格」渡部昇一

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神道、皇室、大和言葉、武士道、教育勅語…こそ日本人の核です

日本人から、品格が失われつつあると言われます。

品格を保つために最も必要なものは、『誇り』『プライド』ではないでしょうか。

プライドを持つことが、すなわち品格のある人間を、形づくる核になると言えるでしょう。

日本人としてのプライドを持ち続けるためには、まず、日本がこれまでどのような歴史を歩み、その中でどのような人々を生み出してきたのかを知ることが大切です。

 

日本は世界で唯一のひとつの文明

日本は、世界で唯一、「文化=文明」である国なのです。

他の文明圏とは違い、日本だけは一文明、一国家、一言語、一歴史です。

「日本は世界的に見てもきわめて特殊な国である」

「日本は一つの文明である」

ということを知ることが、国民にプライドを与えるのではないでしょうか。

 

日本文明の核「皇室」と「神社」

日本が「シナ文明」「儒教文化」ではなく、一つの文明としてとらえる根拠として、「皇室」と「神社」の存在があるからです。

日本を、あるいは日本人を論じる際には、皇室と神社を絡めて論じなければ成り立たないのです。

皇室の本質とは、神話時代から、こんにちまでつづく世界で唯一の王朝であるということです。

神話の神々も、現代の皇室と連続しているということです。

日本は神話の時代がいまもなお続く世界でも唯一の先進国であります。

神道こそ、そして神社こそ、日本の文明であり本質なのです。

日本そのものが世界最大の文化遺産なのです。

皇室と共に神話の神様が今もなお生きている、それが日本なのです。

 

神道と仏教の成立

日本人は、いいものが来れば、何でも受け入れようという精神がありました。

その最も分かりやすい例が、仏教でしょう。

これを、いいものだとして日本は受け入れることにしました。

仏教は国境を越えた大宗教であり、日本の神道は典型的な民俗宗教であるにもかかわらず、これが共存してしまう。

そんな国は他にありません。

日本では『神仏』とひとまとめにして言うのです。

これが日本の大きな特徴のひとつであり、さらに言えば日本の本質を端的に表しています。

皇室、神道、日本仏教が日本文明の三代特徴であり、お互いに関連しています。

 

武士道精神が21世紀を作った

有色人種の中で唯一、日本だけが21世紀に入る頃に、すでに一流国に近づく存在になっていたのは、日本に武士階級があったことに尽きます。

武士たちは剣術に長け、その上で勉強をしていますから、瞬く間にものごとを理解する力を持っています。

日露戦争の勝利がなければ、アメリカで黒人の人権運動が成功することもなかったでしょう。

実際に有色人種が独立するのは大東亜戦争後ですが、その独立運動の中心になった各国のリーダーはみな、日露戦争によって奮い立っているのです。

日本の武士がいなければ、世界中の有色人種は、良くて使用人、悪くて奴隷に近い存在のままだったはずです。

明治の武士が、差別なき21世紀をつくったと言ってよいだろうと思います。

 

武の復権が求められる

日本人の品格を取り戻すためには、正当なる武の復権が求められると考えます。

いわば、武士の伝統の再発見です。

武の伝統を軽んじてはいけません。

日本にはかつて世界に誇るべき武の伝統がありました。

今後も国際的ビジネスの場では商人道を発揮すべきでしょう。

しかし、それも武の復権があって、初めてバランスのとれたプライドとなり得るのです。

文・武・商の伝統に立ち返り、日露戦争前後の日本人が抱いていた気概が再認識された時、日本人に新しい品格が生まれるのではないかと確信しています。

 

美意識を形作った大和言葉

日本人の美意識を形作ったのは大和言葉です。

大和言葉は、奥が深いのです。

8世紀の始めに『古事記』『日本書紀』が編纂された頃、あるいは『万葉集』がつくられた以前から使われていた言葉ですから、我々の血と同様に古いものだと考えられます。

大和朝廷がつくられた頃に、「日本人が日本語だと感じた言葉」が大和言葉だということになります。

日本語について考える時、さらに重要なのは、「言霊」という概念です。

言霊というのは、日本人が最初に『古事記』や『日本書紀』をつくったとき、「自分たちの先祖伝来の言葉として意識して来た言葉」として定義されたものだと言えます。

 

高いモラルを持つ国民

元来日本は、とても治安のいい国でした。

しかし、日本が豊かな社会になるにつれ、道徳観が薄れ、治安は加速度的に悪化していきます。

その原因はどこにあるのかと端的に言うと、「戦前の日本は悪かった」という意識が戦後日本の出発点になったからです。

そして、そのきっかけとなったのが『東京裁判』です。

東京裁判とは名ばかりの占領行政措置であり、終戦処理の一形式と呼ぶべきものでした。

裁判官はすべて交戦国の人間が努め、中立国の人間は入っていません。

現在、世界の国際法を専門にする学者の間では、東京裁判は無効であるというのが定説になっています。

東京裁判の狙いは、明治以来、日本がなしてきたすべての行いを悪だと証明することでした。

 

公職追放令が日本を激変させた

東京裁判では、20万5千人もの人たちに対して公職追放令が下されました。

これは実業界にも波及し、最も悪い影響を受けたのは、学界、言論界です。

戦前、日本のことを良く言った歴史学者、経済学者たちを一掃し、戦前の左翼およびそのシンパが主要大学の総長、学部長クラスの多くにポストを与えられたのです。

彼らは、戦前の日本を良く言うことは絶対にありません。

日本は駄目だと言われ続けた子どもは、果たしてどうなるのか。

アイデンティティもプライドも持てない、将来に希望を持てない大人になるのは、当然のことではないでしょうか。

プライドを失うと人間はろくなことをしなくなる。

気力がなくなり、モラルも低下します。

こうなると、社会は悪いほうへと向かうものです。

「日本人ろくでなし史観」ができ上がり、それが教育の場でも断固死守されたのです。

自国の過去に自信の持てない国民に、品格が備わるはずはありません。

 

日本人の品格を取り戻す

本来日本は、国語については断固自信を持っていいはずなのです。

『源氏物語』を見ても、当時最高の文明であった唐の影響をほとんど受けず、99%大和言葉で書かれているという事実を知れば、日本人の誇りを取り戻すことなど簡単なことでしょう。

和歌を暗記することで、日本人の源流とでも言うべき感性が、自ずと身につくのです。

日本人が「気負い」をなくし、自己の情緒の本然に戻る時、つまり、魂のふるさとに回帰しようとする時、その表現は大和言葉になるのです。

日本人の遺伝子の中に染み込んだ、ごく自然の感覚だと言ってよいでしょう。

 

日本語、国語を重視する視点は、今の日本にとって必要なことです。

言葉の裏にある歴史的背景や日本人ならではの美意識を確認するのに、日本語ほど最適な材料はないと思います。

それを知ることが、日本人としての品格を取り戻すことにもつながるのです。

 

 

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渡部昇一(わたなべ・しょういち)
昭和5年(1930)山形県生まれ。同30年上智大学大学院修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学に留学。Dr.phil、Dr,phil.hc.専攻は英語学。上智大学教授を経て、上智大学名誉教授。専門の英語学だけでなく、歴史、哲学、人生論など、執筆ジャンルは幅広い。昭和51年、第24回日本エッセイストクラブ賞。昭和60年、第1回正論大賞。主な著書に、『英文法史』など、専門書のほか、『知的生活の方法』『知的生活を求めて』『渡部昇一の昭和史』『頭のいい人はシンプルに生きる』『渡部昇一の中世史入門』『中国・韓国に二度と謝らないための近現代史』『95歳へ!幸福な晩年を築く33の技術』など多数。

 

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