『日本文明』は、中華文明、西欧文明、イスラム文明などと並んで、『世界の大文明の一つ』に位置づけられています。
世界主要文明の一つである日本文明は、「一つの国で一つの文明をなしている」という世界に類例のないケースだとされます。
日本文明の根幹には天皇という存在があります。
この体系によって、ほかとはまったく違う宇宙観が成立しているということだと思います。
日本人がこの「天皇を中心とした空間意識」に目覚め、それを守りつづけるかぎり、日本の未来は前途洋々なのです。
神は自分の心に宿る
日本人に宗教心がないというのは誤りです。
日本の宗教は、自分の心を清々しく保つことを重視します。
奇跡に依存したりはしません。
戒律もありません。
神は外部に存在するのではなく、「自らの心に宿る」。
そういう意味では、一番進んだ宗教です。
心によって立つ国
日本人は、「人を騙してはいけない」という倫理観が、基本的に根づいています。
根本的に自分の心を磨けということが、神代の昔から教え諭されてきたからにほかなりません。
そしてこのことが、今まで度重なる困難をくぐり抜けてきた日本人の底力を生み出していると考えられます。
江戸時代の多くの知識人たちは、「正直でさえあれば、その人の心の中に自然に神が宿る」とくり返し書き遺しています。
心も神も、すべて「こころ」、というのが日本人の宗教意識の根源にあるように思うのです。
日本は本来、すべてが「こころ」の上に成り立つ、いわば「心によって立つ国」なのです。
祭祀王としての天皇陛下
天皇陛下の御公務のなかで、もっとも重要なのは「祭祀」です。
国の繁栄と国民の安寧を一途に祈っておられるのです。
そしてこの祭祀は、天皇陛下にしかできないものです。
その意味で天皇陛下は「祭祀王」という、他の皇族とはまったく違う存在でもあられるのです。
今の天皇陛下で百二十五代になる日本の王朝は、世界で群を抜いてトップの歴史を持つものです。
伝統あるヨーロッパの王朝でさえ、もっとも古いのは第五十四代目のデンマーク王朝です。
しかも、万世一系、つまり一つの血統によって連綿と続いているのですから、もはや奇跡です。
この奇跡的な底力を持つのが、私たち日本人なのです。
天皇の系譜
天皇の系譜をたどれば神話にまで行きつきます。
その天皇が、日本国の繁栄と国民の幸せを祈って、日夜、祭祀をなさっておられる。
そのため、天皇が日本という国家を体現し、国民を統合する役割を果たせるのです。
これこそ古代につながる天皇の究極の存在理由なのです。
だからこそ皇室は尊いのです。
そのことに正しく気がつけば、おそらく日本人なら誰しも率直に感動し、感謝の心が生じるはずです。
それが変わることない「日本のこころ」だからです。
自分の幸せを見守ってくださる方がいらっしゃり、しかもその方が神話のうえでは神様につながる存在。
そのような方がおいでになることの幸せや喜びを感じて生きる。
これがこの国のかたち、「日本のこころ」であり、ここに日本文明の核心があるのである。
日本人の本質 | ||||
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中西 輝政
1947年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学人文学部助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学国際関係学部教授を経て、京都大学大学院教授。2002年に第18回正論大賞受賞。