日本人はなぜ「礼儀正しく」「綺麗好き」で「恥を嫌い名誉に死す」を重んじたのでしょうか。
日本的身体を解明していくと、そのなぞがわかってきます。
日本には古神道のように、具体的な教義がありませんでした。
教義の代わりに生まれたのが『型』でした。
『型』は、武術や能、歌舞伎などの古典芸能のみならず、大工などの職人の世界、書道やそろばんといった学問の世界、茶道、華道や料理、掃除といった生活の中にまで及んでいたのです。
日本人は『型』を通して身体や感覚を養い、それを土台にして素晴らしい文化を創り上げてきたのです。
引き締まりを快とする身体
昔の日本人にとっては着物が普段着でした。
着物を着ると、着物を着た身体の使い方をしなくては動きにくくなります。
その動きづらい中に、身体を練る「秘密」があるのです。
また、着物の文化には「帯」「たすき」「はちまき」による締める動きが多くあります。
体を引き締めるという動きを通して、日本人的身体操作は自然に生まれてきました。
日常的に常に身体を締めていたため、昔は極端に太った人は見当たりませんでした。
三種の神器「はちまき」「たすき」「腰帯」
日本人は身体の構造を理解し、そのためのアイテムを開発し、日常の生活で実践していました。
その例に「はちまき」「たすき」「腰帯」があります。
はちまき・たすき・腰帯により後頭骨が引き締まり、肩甲骨が寄って肩の力が抜け、お尻が引き締まって上がるという、元気な身体の状態をつくることができるのです。
この三つを身につけると身体が軽くなり、動きの切れが抜群に良くなるのです。
まさに日本的体文化の「三種の神器」といえるでしょう。
日本人の身体の重心
西洋人(主にアングロサクソン系)と日本人は身体の重心の位置が違います。
日本人は肩の力が抜け肚に力が入る正三角形▲を理想の体形とするなら、西洋人は重心を肩や胸に置いた逆三角形▼が理想の身体だったのです。
日本人は重心が低いため、正座や胡坐などを行うと身体が統一した状態となります。
西洋人は重心が高いので、椅子に座ると身体が統一した状態になります。
日本人が椅子に座ると、腰が抜け、首や肩に余分な力が集まってしまうのです。
日本人の腰椎の焦点
腰椎(椎骨)は5つの骨で構成されています。
この5つの腰椎のどこに焦点があるかで、運動表現が変化します。
ボクシングやレスリングなどの西洋スポーツは、腰椎1番が中心となります。
古武術や相撲、能や歌舞伎に代表される日本の古典芸能の運動姿勢は、腰椎4番が焦点となります。
腰椎4番は、骨盤・生殖器と関連し、運動の方向性としては気が地へ向かいます。
日本人の場合は、引き締まりに関係します。
日本人は、小柄で締まった身体だったのです。
もともと、日本人というのは『身体感覚』で生きていたのです。
頭の介入を嫌ったのです。
体験を通して培った「知恵」や「勘」で生きていたのです。
頭の介入を防ぐ修練として、座禅を組んで心を無にする「無念無想」の状態を求めました。
腰を鍛える日常生活
着物・足袋・草履・帯・たすきなどの日本独自の服装は、腰椎の4番に焦点がいくようにできています。
日本人の帯は、へそよりも下に巻きます。
これにより、腰椎4番に意識が向かい、下腹に力が集まるのです。
日本の体文化が素晴らしいところは、日常の道具や所作がすべて身体を練る動きになっていたことです。
その代表が『正座』です。
正座での生活をすることがそのまま『鍛錬』になっていたのです。
腰が身体操作の要
日本の伝統芸能や職人の世界では、「腰で動け」「上体の力を抜け」と指導されました。
腰には身体操作の要であるということを、無意識に継承していたのです。
古武術では、肩や首など上体に力を入れずに、仙椎・尾骨・腸骨・恥骨・股関節など骨盤部の操作で身体を動かすことにあります。
日本的身体思想は、大地と一体になるという「自然調和」「神仏混合」「八百万の神」「村の文化」などの『和』の思想です。
それらはすべては土に帰るという土着思想が基本です。
腰と肚を中心とした体文化で構成されています。
正座を取り戻す
正座の習慣がなくなってしまったのは、日本人の身体にとって戦後最大の悲劇です。
正座は、効果的に腰を鍛える一つの運動姿勢なのです。
しっかりと正座ができる身体というのは呼吸も深くなり、食も食べ過ぎず適量となり、男らしさ、女らしさを創るのです。
日本人は正座によって、粘り強い腰を養っていたのです。
正座の効用として
- 呼吸器が強くなる
- 生殖器が衰えない
- 食べ過ぎない
- 意志が強くなる
- ぼけない
などの効用があります。
かつての日本人は正座を習慣化することにより、「呼吸器」や「生殖器」「消化器」の働きを高めることができ、若々しく丈夫で品のある身体を保つことができたのです。
筋肉の力を抜く
日常の生活に限らず職人芸や古武術では、現代人とは根本的に違う身体操作を行っていました。
現代においては、「身体を動かす中心は筋肉である」と思われているようです。
これはスポーツに限らず健康・医学の世界でも同じです。
身体はある部位の筋肉を偏って用いると必ずバランスを崩します。
江戸時代の絵や明治・大正時代の写真を見ると、見事に「なで肩」 となっています。
肩に力がはいっていないのです。
『上虚下実』といって、上体の力が抜けるほど下半身が充実してくるのです。
昔の日本人は、現代人に比べていかに腰が決まり、肩や上半身に力が入っていなかったかがわかります。
鼻緒の効用
日本の履物、足袋・草履・下駄は、親指と他の4本指が分かれています。
その理由は、足の親指、つまり第一蹠骨底に体重が集まるようにするためだからです。
鼻緒があることで、第一蹠骨底に自然に意識が集まるようになるのです。
第一蹠骨底に重心がかかると腰に『反り』が生まれ力が集まります。
腰が反ることにより胸郭が広がり、深い呼吸が可能となります。
草履や下駄を履くことが「立つこと」の質を高め、強い腰ができて、深い呼吸と集中力を生み、その結果「手を使うことの器用さ」という日本人の特色と結びついているのです。
日本を理解し、世界を理解する
日本人は言いたいことを言わない。
日本人はイエス、ノーを言わない。
日本人は態度がはっきりしない。
これらのことは、みな否定的にとらわれています。
腰椎4番に焦点がある身体は、勘や本能がすぐれた身体なのです。
つまり、相手が口に出していないことも、感じてわかる能力を持っているということなのです。
「感応の世界」「本能の世界」「生命力」「種族保存のエネルギー」などを日本人がもう一度取り戻していくことが、自信を持って色々な国と調和していく結果に繋がるのではないでしょうか。
日本人力―ジパングボディシステムで甦れ | ||||
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河野智聖(こうの ちせい)
http://meuto.jimdo.com/
武術・整体・古神道などニッポンに伝わる身体操作や感覚技法を研究。心道・快気法・動体学などを考案し、東京、大阪、名古屋を中心に活動する他、雑誌への執筆など活動の幅を広げている。